●ソラリスSolaris

 

 

2002年アメリカ
監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:ジョージ・クルーニー、ナターシャ・マケルホーン、ジェレミー・デイビス、ヴィオラ・デイビス

 

Though they go mad they shall be sane,
たとえ狂おうとも正気になり
Though they sink through the sea they shall rise again;
たとえ海に沈みゆこうとまた浮上し
Though lovers be lost love shall not;
たとえ愛する人亡くとも愛は死なず
And death shall have no dominion.
かくて死はその支配をやめる
(ディラン・トーマス)

 本作品は、アンドレイ・タルコフスキーが1972年にソ連で制作した「惑星ソラリス」のリメイクである。旧作ではラストにどんでん返しがあるが、ソダーバーグ版では、旧作がネタばらしになっていることからこれを採用せず、旧作にはなかった、クリスが地球への帰還を断念するシーンを挿入した。私はこれを高く評価したい。

 精神を病んだレイアは、夫に愛されていないのではないかと疑い、堕胎した。クリスはこれに憤り家を出るが、レイアは自殺してしまった。レイアには堕胎した罪の意識があり、クリスには妻を自殺させた罪の意識がある。
 あの日に戻りたい、もう一度やり直したいという思いは、誰にでもあるのだろう。しかしそれは、かなわぬ夢である。だがソラリスは、そんな悲痛な願いをかなえてくれた。死んだレイアを再び登場させてくれたのである。
 だがそれは、クリスの過去の記憶をソラリスが読み取り物質化した、いわばレプリカである。彼女が反応するのは、クリスの予想を反映しているに過ぎない。二人にとって未来はない。それは永遠に続く過去でしかない。レイアは自分の存在に疑問を抱き、二度目の自殺を遂げる。

 地球への帰還船が離脱すると、宇宙ステーションはソラリスの大気圏へと落ちて行く。ここで宇宙ステーションが燃焼するシーンがなかったのは、残念である。クリスが叫ぶ。
「レイア! レイア!」
 サミュエル・スマイルズは、「一個の人間は地球より重い」と言った。壊れてしまった愛を取り戻すためなら、生まれた星を棄て、未来を棄て、肉体さえも棄てられるのか。
 ここでソラリスによって作られた少年が、クリスに手を差し伸べる。それはミケランジェロの絵画「アダムの創造」で、神がアダムに命を注ごうとするシーンに酷似している。

 クリスは、ソラリスの意志により新しい命を注がれたのか。新しい世界では、指を切ってもすぐに傷が癒えてしまう。もはや以前の肉体ではない。
 レイアの再生を待つクリスの前に、再びレイアが現れる。彼女はどれだけ本物のレイアなのか。クリスは生きているのか、死んでいるのか。だがもう、そんなことはどうだっていい。生まれた星を棄て、未来を棄て、肉体さえも棄てて、ただ執念だけの存在となって、それでもお互いを求めずにはいられない。壊れてしまった愛の日々をやり直すために。


「私は、新しい天と新しい地を見た。以前の天と以前の地は過ぎ去り、もはや海もない。」 (ヨハネ黙示録21章)。

 

 

 

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