カナダ人物列伝 作品講評

 

 

 


自費出版で有名な「文芸社」に「カナダ人物列伝」の原稿を送り、講評をいただいたので公開する。

 

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カナダ史上にその名を刻む有名人達の人物像を紹介したミニ伝記集をお寄せいただいた。一読、平明簡潔な文章である。情報量は極めて多いが、にもかかわらず本作は実に読みやすく、肩の張らない読み物として楽しむことができる。誰でもその名を知っているような世界的な偉人からカナダのローカルな有名人まで、本作で紹介されている人物達の波乱に満ちた生涯や輝かしい業績の数々を通して、カナダという国と歴史に対する興味や関心を掻き立てる好著と言えよう。

本作には、宣教師、牧師、開拓者、作家、学者、発明家、資産家、医師、外交官、スポーツ選手など、多種多様な人物達の逸話が揃えられている。中でも電話の発明者として知られるグラハム・ベルを筆頭に、インシュリンを発見したフレデリック・バンティング、「ストレス」という概念を確立したハンス・セリエ、無線電送写真を発明したウィリアム・スティブンソン、ラジオ放送に成功したレジナルド・フェッセンデン、世界標準時を考案したサンドフォード・フレミング、灯油を発見したエブラハム・ゲスナー、そしてバスケットボールを考案したジェームズ・ネイスミスと、現在我々の生活に深く関わるものをカナダ人が発明・発見していたという事実に、意外性と驚きを覚える読み手は少なくないに違いない。

特筆すべきは、そうした偉業や栄光だけを取り上げるのではなく、その後の没落や失敗についてもきちんと言及している点だろう。これによって本作は、富や名声に対する人間の飽くなき欲望や、信念や理想を糧にして飛躍を試みる人間の逞しさと可能性を訴えると同時に、時代に翻弄された人間の悲哀をも照らし出し、人間の営為を包括的に見据えた深みを感じさせる作品に仕立てることに成功している。

瑕疵というほどのものではないが、気になる点もある。現稿では人物名が並べられているだけで、構成らしい構成は存在しない。そのせいか一冊の本として読んだ場合、どうしても雑然とした印象を与えるきらいがある。時代ごとやカナダ国内で有名な人、海外で活躍した人、カナダ移民者で分類して章分けするなど構成面の工夫をされることをお勧めしたい。また、カナダの歴史に詳しくない人にとっては、説明がやや不足気味に感じる箇所もあった。特に歴史的背景に関してはもう少し掘り下げた解説があると、読み手の理解が今以上に進むように思われる。

最後に気になった点について指摘を加えもしたが、基本的には構成面の問題に過ぎず、今後の編集段階で相談を重ねながら作業を進めていくことで十分対応可能な問題と考えている。何より世界史的人物群に光を当てている作品ということで、カナダの関連本としては勿論、知っていればさり気なく自慢できるようなトリビア系雑学本としても、時代や流行に左右されることなく読み継がれる作品になる可能性は十分期待できると思う。完成度を高められた本作がこの機に刊行の運びとなり、一人でも多くの読者に供されることを願ってやまない。

 

 

 

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