[1] クリー文字(もじ)考案(こうあん)

   James Evans(1801−1846)

 

 インディアン伝道(でんどう)(しょう)(がい)(ささ)げたジェームズ・エバンスは、ハドソンベイ(しゃ)(いん)(ぼう)によってカナダを()われた。文字(もじ)()たないインディアンが聖書(せいしょ)()めるように考案(こうあん)したクリー文字(もじ)は、恣意(しい)(てき)白人(はくじん)()しつけだとされ、(かれ)(ぎょう)(せき)(こん)(にち)もなお(ひょう)()されていない。

 

 イギリスの(みなと)(まち)キングストン・アポン・ハルに()まれる。(ちち)ジェームズSr.(せん)(ちょう)で、エバンスも()(ども)のころは(ふな)()りになって外国(がいこく)を旅することにあこがれたが、(ちち)(ふね)()(だい)()もなく()わると(かんが)え、(むす)()学校(がっこう)()れて(しょう)(ぎょう)(まな)ばせた。しかしエバンスが(もっと)才能(さいのう)(はっ)()したのは外国(がいこく)()だったという。

 1820(ねん)()(ぞく)がカナダに()(じゅう)したのを()け、(かれ)も2(ねん)()()(みん)してオンタリオ(しゅう)ロリジナルで教職(きょうしょく)()く。だがウイリアム・ケース(ぼく)()がインディアン(きょう)(いく)必要(ひつよう)()いているのに意気(いき)投合(とうごう)して、1827(ねん)(えい)(こく)ウェスレー()(せん)(きょう)(だん)(くわ)わり、オンタリオ(しゅう)ライスレイクのミッションスクールでオジブワ(ぞく)インディアンの(きょう)(いく)を始めた。

 その()(かれ)(まる)()小屋(ごや)学校(がっこう)(きょう)(かい)邸宅(ていたく)()(りき)()て、(せい)()半数(はんすう)(えい)()()めないというクラスで、オジブワ()聖書(せいしょ)を教えた。(かれ)()(がく)(りょく)には()()()るものがあり、創世(そうせい)()()(へん)(さん)()()翻訳(ほんやく)し、オジブワ()(えい)()対照(たいしょう)(たん)()(ちょう)さえ(つく)っていた。これに(おどろ)いたケース(ぼく)()は、エバンスをニューヨークに()(けん)し、1837(ねん)ミッションスクールのテキストとして「(えい)()とイテキスト ボックス: クリー文字表。エバンスは8つの子音字と4つの母音字を考案し、長母音は母音字を添えて表記した。長音符号、終符号、下4行の子音は後に追加されたものである。ンディアン()の (つづ)りと翻訳(ほんやく)」のタイトルで(しゅっ)(ぱん)させた。

 しかし(えい)(こく)聖書(せいしょ)翻訳(ほんやく)(きょう)(かい)(ひょう)()は、「明快(めいかい)さに欠ける」と()(きび)しいものだった。インディアンの(げん)()では(おお)くの(たん)()が連結し、一つの文が一つの(たん)()にまとまる((れい)(かれ)はそれを(すい)(ちゅう)()れた→Pukustowahum)という(とく)(ちょう)があるので、ローマ()(ひょう)()したのでは(なが)くなってしまうのだ。

 

 1839(ねん)、ハドソンベイ(しゃ)総裁(そうさい)ジョージ・シンプソン(きょう)がミッションを(おとず)れ、ルパーツランド((いま)(ちゅう)西(せい)()(ぜん)(いき))に(せん)(きょう)(だん)()(けん)したい(むね)()げる。(とう)()インディアンの(あいだ)でキリスト(きょう)(ねつ)(さか)んになり、(かみ)のみことばを(もと)めて(ぞく)(ぞく)()(かい)(なん)()して()るため、(ほく)()での()(がわ)交易(こうえき)(こん)(なん)になりつつあった。そこで(かれ)らをインディアンの()(らく)(とど)めるため、総裁(そうさい)はミッションを設立(せつりつ)しようと(かんが)えたのである。こうして翌年(よくとし)北西(ほくせい)インディアン・ミッションが設立(せつりつ)され、エバンスはその(だい)(ひょう)としてノルウェーハウス((げん)マニトバ(しゅう))に()(けん)されることになった。そのほか総裁(そうさい)(した)しいウイリアム・メイソン()がラク・ラ・プリュイに、ロバート・ランドル()がエドモントンに、ジョージ・バーンレー()がムース・ファクトリーにそれぞれ()(けん)されることになったが、メイソンはピーター・ジェイコブス()とともに()(にん)することに(なん)(しょく)(しめ)した。それはジェイコブスが(しゃっ)(きん)(かか)えていることや、女性(じょせい)にもて()テキスト ボックス: 「綴りと翻訳」から。左はオジブワ語、右は英語。てしばしばトラブルを()こしていたことが()(ゆう)だった。そこでエバンスは、ヘンリー・シュタインハウアー()をメイソンにつけることにした。インディアンの(かれ)は、(おさな)いころ(りょう)(しん)()てられていたのをケース(ぼく)()(ひろ)われ、(せい)()(たい)(くわ)えたところ抜群(ばつぐん)()(しょう)(りょく)()(はつ)さを(はっ)()し、ヘンリー・シュタインハウアー()(よう)()となって(よう)()()をもらい()け、インディアンと白人(はくじん)(りょう)(ほう)(ぶん)()(げん)()()(とく)し、インディアンには(めずら)しくアッパーカナダカレッジを(そつ)(ぎょう)し、エバンス()()()んだこともあり、エバンスは絶大(ぜつだい)信頼(しんらい)()せていたのだった。エバンスは(つま)メアリと(むすめ)のクラリッサ、そしてジェイコブスとともにカヌーに()り、ノルウェーハウスまで3000キロの行程(こうてい)を2ヶ(げつ)かかって()(にん)した。

 そこでのエバンスの()(ごと)は、クリー(ぞく)インディアンに聖書(せいしょ)(えい)()算数(さんすう)(おし)えることだった。(とう)()西(せい)()開拓(かいたく)(ちゃく)(じつ)(すす)んでおり、インディアンはハドソンベイ(しゃ)()るためビーバー()りに(はし)ったり、森林(しんりん)伐採(ばっさい)したりして()(ぜん)()(かい)するのみならず、(ぎょ)(ろう)(のう)(こう)(しゅ)(りょう)など(ふる)くからの(せい)(ぎょう)()て、伝統(でんとう)(てき)生活(せいかつ)()(かい)されつつあった。またその()(かえ)りにもたらされた(さけ)が、(れき)()(てき)(さけ)()らなかった(かれ)らを()(らく)させていった。このままではインディアンは(しょく)(みん)()()(れい)になってしまう、そう(かんが)えたエバンスはよりいっそうの(きょう)(いく)必要(ひつよう)だと(かん)じたが、いかんせん(ほん)がなかった。第一(だいいち)、インディアンの(げん)()には文字(もじ)がなかったのである。

 1840(ねん)のある()、エバンスは()(らく)(なか)にともるいくつかの蝋燭(ろうそく)()かりを()つめていた。それは(せん)でつなぐと、ちょうど()(ぞら)(かがや)(せい)()のようだった。そのとき(かれ)(のう)()(ひと)つのアイデアがひらめいた。(かれ)(いそ)いで(いえ)(もど)ると、おもむろに(つくえ)()かった。

 「(つづ)りと翻訳(ほんやく)」の()(ひょう)は、(かれ)にとってはいい経験(けいけん)だった。クリー()はわずか4つの()(いん)と8つの()(いん)からなり、合計(ごうけい)36音節(おんせつ)があるが、音節(おんせつ)()(いん)()わることはほとんどないため、()(いん)()(いん)を合わせて(いち)音節(おんせつ)(ひと)()()とする。そうすれば(なが)(たん)()も少ない()(かず)(つづ)ることができる。また4種類(しゅるい)()(いん)は、(ひと)つの()(いん)()(じょう)()()(ゆう)反転(はんてん)させて(あらわ)すようにすれば、(おぼ)える文字(もじ)は9種類(しゅるい)になるため、()()()らないインディアンにも(おぼ)えやすいだろう。こうしてエバンスのクリー文字(もじ)36文字(もじ)()まれたのだった。

 だが(つぎ)印刷(いんさつ)しなければならない。(かれ)(ねん)()、チョーク、パテ、(すな)などで()(がた)()り、(ふる)(ちゃ)(ばこ)(うら)()ちと弾丸(だんがん)から(なまり)()って(かつ)()(つく)り、白樺(しらかば)(かわ)(かみ)()わりとし、()(がわ)プレテキスト ボックス: 1841年にエバンスが鹿皮に印刷したクリー語の祈祷書。()印刷(いんさつ)()改造(かいぞう)し、(つま)(だん)()のすすを(さかな)(あぶら)動物(どうぶつ)血液(けつえき)()ぜてインクを作った。こうして1840(ねん)10(がつ)13(にち)()(かい)(はつ)のクリー文字(もじ)(ほん)印刷(いんさつ)されたのである。それは鹿(しか)(がわ)(そう)(てい)された()(づく)りの、わずか16ページの(せい)()(さん)()()(ほん)だった。そしてこれがロスビル・ミッション印刷(いんさつ)(じょ)(はじ)まりとなるのである。

 

 1842(ねん)、エバンスは翻訳(ほんやく)(すす)めるためメイソンとシュタインハウアーを()()せ、ジェイコブスと交替(こうたい)させることにした。ジェイコブスは有能(ゆうのう)(きょう)()だったが、インディアンの(しょう)(じょ)裁縫(さいほう)(おし)えているマギー・シンクレアが、(せい)()(まえ)でハンサムなジェイコブスに()()っているのを、エバンスは(こころよ)(おも)わなかったのだ。このときのマギーの(うら)みが、(のち)()(けん)をひき()こす引金(ひきがね)となるのである。

 さてエバンスはその(とし)(あたら)しいミッションの(せっ)()(しん)(せい)するが、総裁(そうさい)(きゃっ)()されてしまう。そればかりか総裁(そうさい)は、(こう)(えき)にたずさわるインディアンに、日曜(にちよう)()(はたら)かないと食糧(しょくりょう)(だん)(やく)()(きゅう)しないと通告(つうこく)したのである。(かれ)らが(せい)(ぎょう)()て、ビーバー()りで生計(せいけい)()てている(いま)となっては()(かつ)問題(もんだい)だった。しかし会社(かいしゃ)にとっては、あくまでもインディアンを白人(はくじん)()(はい)()()くために()(きょう)(しょう)(れい)したに()ぎないのに、その(けっ)()(かれ)らは(さけ)()わなくなり、日曜(にちよう)()(はたら)かなくなったため、方針(ほうしん)()(なお)さざるを()なくなったのである。

 そこでエバンスは(よく)1843(ねん)、フォートゲーリーへ()って総裁(そうさい)(こう)()した。(とう)()広大(こうだい)なルパーツランドがハドソンベイ(しゃ)()(ゆう)()で、総裁(そうさい)帝王(ていおう)として絶大(ぜつだい)(けん)(りょく)()っていた()(だい)のことである。

総裁(そうさい)()った。

()(じん)宗教(しゅうきょう)(てき)(しん)(じょう)会社(かいしゃ)()(こう)(いっ)()しないときは、会社(かいしゃ)(ほう)優先(ゆうせん)させるべきだ」。

だがエバンスは(こた)えて()った。

総裁(そうさい)会社(かいしゃ)()(こう)(かみ)律法(りっぽう)優先(ゆうせん)させるのですか。我々(われわれ)(かみ)(つか)えているのであって、ハドソンベイ(しゃ)(つか)えているのではありません!」

(きみ)会社(かいしゃ)問題(もんだい)(くち)()しするのかね?」

「いいえ、総裁(そうさい)(きょう)(かい)問題(もんだい)(くち)()しなさっているんです。総裁(そうさい)がお(かんが)えを(あらた)めないようでしたら、(わたし)はこの(けん)(げん)(じゅう)(みん)(きょう)(かい)(てい)()します。お(のぞ)みでしたら、(へい)()(へい)()()(かい)(てい)()しても(けっ)(こう)です」。

テキスト ボックス: ジェームズ・エバンス。そう()うなりエバンスは部屋(へや)()()った。総裁(そうさい)はこのとき、エバンスを追放(ついほう)してやろうと(こころ)()めた。

 

 このころ、メイソンがエバンスの(むすめ)クラリッサに()()るという()(けん)()きた。エバンスはメイソンを転勤(てんきん)させようとするが、総裁(そうさい)妨害(ぼうがい)にあい(とん)()する。メイソンはミッションに(とど)まり、総裁(そうさい)(とお)(えん)にあたるソフィアと結婚(けっこん)して(だい)(ひょう)補佐(ほさ)(しょう)(しん)した。

さてミッションは1845(ねん)(えい)(こく)聖書(せいしょ)翻訳(ほんやく)(きょう)(かい)から印刷(いんさつ)()(てい)(きょう)された。これはエバンスが5(ねん)(まえ)(ちゅう)(もん)したが、ハドソンベイ(しゃ)(なに)かと()(ゆう)をつけて発送(はっそう)せず()()いたものだった。しかも(よう)()宗教(しゅうきょう)関連(かんれん)(かぎ)り、(はい)()(まえ)にハドソンベイ(しゃ)(てい)(しゅつ)(けん)(えつ)()けることという(ことわ)りがついていた。インディアンを無知(むち)なままに(とど)めておきたい会社(かいしゃ)が、クリー()(たい)(りょう)(しゅっ)(ぱん)(たい)(しゅう)(きょう)(いく)への(とっ)()(こう)にしようとするエバンスに(くぎ)()したのである。このころシュタインハウアー、ジョン・シンクレア、メイソン()(じん)らはマタイ(ふく)(いん)(しょ)翻訳(ほんやく)()え、エバンス()(じん)とメイソンは(しょく)()にいそしみ、この分なら2(ねん)()(ない)に完全な聖書(せいしょ)印刷(いんさつ)ができるとエバンスは(おも)った。だがこのとき(かれ)は、()(ろう)のため腎臓(じんぞう)(わる)くしていた。

 この(とし)(ふゆ)、エバンス()()()みで家事(かじ)()(つだ)いをしていた、14(さい)のインディアンの(しょう)(じょ)イライザ・サクタハナが(やまい)(たお)れた。(かの)(じょ)(からだ)(きょ)(じゃく)なため、(りょう)(しん)()(せい)生活(せいかつ)無理(むり)判断(はんだん)し、ミッションに(おく)ったのである。この(とう)()白人(はくじん)()()天然(てんねん)(とう)が、(めん)(えき)()たないインディアンを(かず)(おお)()()いやっていたが、ついに(かの)(じょ)感染(かんせん)したのだった。

 エバンスが(しず)かにイライザの寝室(しんしつ)(はい)ると、(かの)(じょ)(ねむ)っていた。(ねつ)()ようとして、イライザの(ひたい)にそっと()()てると、(かの)(じょ)()()ました。

先生(せんせい)先生(せんせい)はインディアンの()でも、白人(はくじん)()(おな)じように(あい)しますか」。

エバンスはほほえみながら、

「もちろん(あい)するよ。()(あい)はすぐ()くなるから、(なに)心配(しんぱい)しないで(はや)くお(やす)み」。

そう()って(しず)かに部屋(へや)()()った。

 

 その数日(すうじつ)()、ジョン・マメナワトムの(つま)となっていた(せん)(きょう)(だん)のマギー((きゅう)(せい)シンクレア)が、メイソンの通訳(つうやく)デビッド・ジョーンズと(うわ)()していたことが発覚(はっかく)した。エバンスは(ふた)()解任(かいにん)(けつ)()して出張(しゅっちょう)()る。ところが解任(かいにん)(おそ)れた(ふた)()(かれ)留守(るす)(ちゅう)に、(かれ)がイライザをかどわかしたとして(ぎゃく)にミッションに(うった)えを()こしたのである。そして、このような()()もないでっち()げを(きゃっ)()するべき(たち)()にあった補佐(ほさ)のメイソンは、(なん)とその(うわさ)(うら)づける(しょう)(にん)(あつ)めるという、(しん)(がた)行動(こうどう)()たのだった。

 エバンスを(した)人々(ひとびと)は、メイソンのところへ()って(こう)()したが、メイソンは()った。

「これだけ多くの(しょう)(にん)がいる()(じょう)(こう)(ちょう)(かい)はやらなければならないでしょう。エバンス()本当(ほんとう)()(じつ)なら、(かれ)はそれを(りっ)(しょう)すればいい」。

また、シュタインハウアーもメイソンに(こう)()した。

(わたし)何年(なんねん)もエバンス先生(せんせい)といっしょに()らし、ともに(ほう)()してきました。先生(せんせい)がそんなことをするなんて(なに)かの()(ちが)いです」。

だがメイソンは、(こえ)をひそめてこう()った。

「これは会社(かいしゃ)()(こう)なのだ。エバンス()(つい)(ほう)しなければ、ミッションそのものがつぶされてしまう。そうなったら(いま)までの()(ろう)はどうなるのだ」。

ミッションを財政(ざいせい)(てき)(ささ)え、ルパーツランドを()(はい)しているハドソンベイ(しゃ)には(だれ)(さか)らえなかった。そして()(ざわ)りなエバンスを(のぞ)きたい総裁(そうさい)陰謀(いんぼう)と、その親類(しんるい)でミッションの実権(じっけん)(にぎ)ろうとするメイソンの()(しん)結託(けったく)していることは、(だれ)()にも(あき)らかだった。

 

 1846(ねん)(がつ)()、エバンスがふだん使(つか)っている(きょう)(たく)に、メイソンが()(ちょう)として(せき)についた。そしてエバンスを(した)うインディアンが大勢(おおぜい)見物(けんぶつ)する(なか)(こう)(ちょう)(かい)(えい)()(はじ)められた。冒頭(ぼうとう)マギーが(しょう)(げん)した。

「エバンス()(しん)()イライザの寝室(しんしつ)(はい)り、(かの)(じょ)に『(あい)している』と()って誘惑(ゆうわく)しました」。

エバンスは(ひっ)()弁明(べんめい)した。

()(かい)だ。(かの)(じょ)(わたし)に『白人(はくじん)(おな)じようにインディアンも(あい)しますか』と・・・(わたし)のクリー()()(ちが)いがなければ・・・()ったので、そうだと()ったのだ。(わたし)たちはクリスチャンの(あい)について(かた)()っていたのだ」。

 こうした(はげ)しい(おう)(しゅう)(のち)、メイソンの判決(はんけつ)(くだ)った。

「エバンス()(しょう)()()(じゅう)(ぶん)のため()(ざい)とする。だが()言動(げんどう)は、(かみ)(つか)える(もの)としてはあまりにも軽率(けいそつ)だったのではないか」。

そしてエバンスを()(なん)した(きょ)()(しょう)(げん)満載(まんさい)された議事(ぎじ)(ろく)を、ロンドンの(せん)(きょう)(だん)(ほん)()(おく)ると(はっ)(ぴょう)した。見物(けんぶつ)(にん)からの()(ろん)はなかった。(かれ)らは(えい)()()(かい)できなかったからである。(すべ)ては(すじ)()(どお)りだった。

 ところがその()マギーの(おっと)ジョンが、(こう)(ちょう)(かい)()公正(こうせい)()(てき)したインディアンたちの(しょう)(げん)をまとめてエバンスに()()した。エバンスはこれを(せん)(きょう)(だん)(ほん)()(てい)(しゅつ)しようとするが、ハドソンベイ(しゃ)郵送(ゆうそう)(きょ)()されてしまう。そこで(かれ)は、(しゃく)(めい)のためロンドンに()くことに()めた。

 エバンスが()(づく)りをしていると、インディアンが大勢(おおぜい)(あつ)まって()た。

「みこころなら、来(ねん)(なつ)(もど)って()るよ。それまで(わたし)(おし)えたことを(わす)れないでいて()しい。(きみ)たちにはクリー()(ふく)(いん)(しょ)も、(さん)()()もあるじゃないか。(こん)()(もど)って()るときには、完全(かんぜん)聖書(せいしょ)印刷(いんさつ)ができるだろう」。

(かれ)らは(こた)えて()った。

「はい、先生(せんせい)、ピナ・ワ・ウェプシムの(つき)()()(6(がつ)産卵(さんらん)())に(かえ)って()(くだ)さい。それがだめでも、この()がかすんで、(かみ)(ゆき)()じるようになっても、いつまでも()っています」。

 (だれ)もエバンスが(かえ)って()られるとは(おも)っていなかった。そして実際、(かれ)(もど)テキスト ボックス: ウィニペグ駅前のクリー文字の看板。って()ることはなかったのである。

*    *    *    *    *    *

 

 イギリスに()いて()もなく、腎臓(じんぞう)()んでいたエバンスは(てん)()されて()った。(じゅう)(ぶん)()(ごと)()()げた(かれ)を、(かみ)()られたのだった。

 (かれ)がイギリスに()(まえ)、イライザが(かん)(びょう)甲斐(かい)もなく()くなった。天然(てんねん)(とう)(もう)()()るい、ジョーンズとマギーの(おっと)ジョンなど(むら)(びと)(やく)30(めい)(いのち)(うば)った。(むら)(びと)たちは口々(くちぐち)天罰(てんばつ)だと(うわさ)した。

 メイソンはヨハネ(ふく)(いん)(しょ)翻訳(ほんやく)完成(かんせい)させ、1846(ねん)ロスビル・ミッション印刷(いんさつ)(じょ)として(はじ)めて、53のページに(せい)()が5(せつ)ずつ(しる)されたヨハネ(ふく)(いん)(しょ)(しゅっ)(ぱん)する。だがメイソンの嘆願(たんがん)にもかかわらずハドソンベイ(しゃ)援助(えんじょ)()()られ、1849(ねん)すべてのミッションはルパーツランドから()()げ、ロスビル・ミッション印刷(いんさつ)所も(れき)()(まく)()ろした。メイソンは1854(ねん)(こっ)(きょう)(かい)(ぼく)()転身(てんしん)し、1861(ねん)イギリスに(もど)って()(さかい)(はつ)のクリー()(スワンピー・クリー()聖書(せいしょ)刊行(かんこう)指揮(しき)する。その(とし)(しゅっ)(ぱん)された聖書(せいしょ)には、(かれ)()だけが翻訳(ほんやく)(しゃ)として()(かえ)しに載ったため、クリー()翻訳(ほんやく)(かれ)(ひと)()()によるものであり、(かれ)がクリー文字(もじ)考案(こうあん)(しゃ)だと(なが)(あいだ)(かんが)えられていた。これがシュタインハウアーの(むす)()ロバートによって(あやま)りであることが(おおやけ)にされるのは、(じつ)1936(ねん)のことである。

 1872(ねん)(せん)(きょう)(だん)(ふたた)びルパーツランド伝道(でんどう)(かい)()する。(げん)()()(にん)したジョン・セメンス(せん)(きょう)()は、()(ぎわ)(ろう)()(だい)()(きゅう)()るように()ばれ、(いそ)いで()けつけるとその(ろう)()は「ずっと(むかし)(ひと)(たの)まれてエバンス先生(せんせい)裁判(さいばん)(うそ)(しょう)(げん)をしたことがある。でも(かみ)のみもとに()(まえ)告白(こくはく)できてよかった」と(かた)ったと()(ろく)(のこ)している。

 

 その()インディアンはアルファベットを使()(よう)するようになり、クリー文字(もじ)(すた)れていった。しかし(こっ)(きょう)(かい)(せん)(きょう)()ジョン・ホーデンとエドウィン・アーサー・ワトキンズにテキスト ボックス: 英・仏・クリーの3ヶ国語で書かれた碑文(マニトバ州ウィニペグ)。よってイヌイットに(つた)えられ、今日(こんにち)(いた)っている。そしてエバンスの()(れき)()から(わす)れられていった。だが(かみ)のみことばは、今日(こんにち)もなおインディアンの(あいだ)(かた)られ(つづ)けている。

 

 

 

 

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